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ATM|Onikai

202510/11
202511/01

Yuichiro Tamura

Onikai MtK Contemporary Art (MtK Contemporary Art別棟2階)では、10月11日(土)より田村友一郎の作品《ATM》を展示致します。
本作は、昨年の11月から本年1月にかけて水戸市にある水戸芸術館(Art Tower Mito)にて開催された個展『ATM』にてされた代表作《ATM》を展示致します。

田村はこれまで、土地固有の歴史的主題や時事的な主題などを扱い、映像やインスタレーション、パフォーマンス、舞台といった多彩なメディアの作品を発表。 主題となる事象をイニシャルや象徴的な記号へと還元し、その記号を複数の文脈を読み込む交流点とする事で、異なる次元や相位との相互関係性の中に顕れる「世界の姿」を作品によって露見させてきました。 本作では、田村のこの様な作品にまつわるテキストや台本、インタビューなどの作品情報を機械学習したAIが、現金自動預払機を模した装置に格納され、観客が選ぶ任意の3文字をキーとし、啓示とも読める文章を自動出力します。

Art Collaboration Kyotoと同時に水戸芸術館にて田村のレトロスペクティブとして開催される個展《ATM》でも、対をなす作品が展覧会の核を担い展示され、本展は、現金自動預払機(ATM)さながら、個展会場から離れた遠隔地でも田村の意図を介さず自律して、本作《ATM》が機能することを実証する初の試みの場となります。

 

本展覧会では、a three-letter acronym(TLA)のjapanglishであるThree-Letter Code(TLC)から着想を得たスロットマシンを模した新作「TLC」が発表されます。この作品は、3つの各リールに26文字のアルファベットが配列されており、レバーを手前に引く事で3文字の偶発的な組み合わせのTLAを作り出します。

 

グローバル化の進展は、芸術およびその市場構造に大きな変化をもたらし、作品や作家はかつてない速度で国境を越えて流通するようになった。急速なグローバリゼーションの進行によって地域固有の歴史や文化、さらにはマイノリティの存在が危機に直面する中で、「文化的多様性」という理念の重要性は高まりを見せてきた。「文化的多様性」は多元的な価値観の承認として肯定的に捉えられる一方で、実際には文化的差異の前景化を推し進めるのみで、その差異を消費的に利用するにとどまる場合も少なくない。ニコラ・ブリオーが『ラディカント』(2022)で論じたように、ポストモダン以降の多文化主義においては、地域性や歴史性は商品化のプロセスに組み込まれ、結果として文化的多様性の表象そのものが同質化の力学に包摂される危険を孕んでいる。差異の可視化や多様性の称揚は「単一化された価値享受の枠組」へと吸収され、批評契機を喪失する可能性すら孕んでいる。 田村友一郎の実践は、まさにこの「単一化された価値享受の枠組」というポストモダニズム以後の課題に応答するものであり、美学的批評の実践によってそれを乗り越える視座を示している。田村の映像作品に特徴的な、歴史的断片(実際に起こった事象)と架空の物語を交錯させる編集的手法は、ジャック・デリダの言う「差延」を可視化したかのような構造を有している。過去・現在・虚構が相互にずれを孕みながら関係を結ぶことで、複層的な時間構造が立ち上がるのである。 代表作《Chemistry / The Story of C》は、その試みを端的に示すものである。本作は、異なる文化圏を越境するメタファーとして捉えられる「船」にまつわるエピソードから始まる。2020年、ダイヤモンド・プリンセス号で発生した船内集団感染事件を起点に、同船が造船時に火災に見舞われ、建造中の姉妹船サファイア・プリンセス号の躯体が急遽ダイヤモンド・プリンセス号へと転用されたという数奇な歴史へと物語は展開していく。その後、改修を経て本来の船名を取り戻した経緯は、アイデンティティを流動的かつ交換可能な表象として浮かび上がらせ、「固定的な本質」という枠組みは果たして存在し得るのかという問いを突きつけている。 作品タイトル「C」は、多重の意味を内包している。COVID-19の「C」、ダイヤモンドの元素記号であるCarbonの「C」、科学を意味するChemistryの「C」、蝉(Cicada)の「C」、抜け殻を意味するCadaverの「C」などである。これらをイニシャルという交流点において接続することで、複数の異なる位相や次元が交差する場を形成し、単一の解釈に還元されない多義性を保証している。その構造は一見言葉遊びのようにも映るが、むしろ鑑賞者の思考を拡張する装置として機能しているのである。 本作は全四章から構成される。一章「炭化」に続き、二章「真贋」、三章「半身」の三つの映像作品、さらに身体的制約から映像メディアの枠組を再設定する試みともいえる、十時間に及ぶオンライン・ライブパフォーマンスの長編ドキュメンタリーを加えて展開される。これにより、複層的な叙述が立ち現れ、歴史的出来事と虚構が拮抗しながら流動的なナラティブを生み出している。 田村は自身の制作を「リサーチ」ではなく「サーチ」であると語る。《テイストレス》(2021)の上演時のインタビューでは「深く調べるというよりも表層的な広がりを意識し...縦軸ではなく横軸。その上で、何と何が繋がるかを意識することで、より広がりを持った射程を獲得できる」と述べている。この姿勢は、作品がルーツやアイデンティティといった固定的な体系に依拠するのではなく、それらを「漂流(drift)」させることによって差異そのものを溶解させ、鑑賞者が自らの独自のナラティブへと変換する余白を開いくだけではなく、グローバル化が進行する現代における新しい思考法を示唆しています。

 

 

田村 友一郎|Yuichiro Tamura

1977年富山県生まれ、京都府在住。
既存のイメージやオブジェクトを起点にした作品を手掛ける。作品は、写真、映像、インスタレーション、パフォーマンス、舞台まで多彩なメディアを横断し、土地固有の歴史的主題から身近な大衆的主題まで幅広い着想源から、現実と虚構を交差させつつ多層的な物語を構築する。それによりオリジナルの歴史や記憶には、新たな解釈が付与され、作品は時空を超えて現代的な意味が問われることになる。作品体系として、その多くがコミッションワークであり、近年では美術館のコレクションなども対象の事物として扱う。

近年の展覧会に、個展「ATM」(水戸芸術館現代アートギャラリー、2024-2025)、「1995⇄2025 30年目のわたしたち」(兵庫県立美術館、兵庫)、「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」(豊田市美術館、2024)、個展「After IAN Trip」(Onikai MtK Contemporary Art、2024)、「Milky Mountain / 裏返りの山」(Govett-Brewster Art Gallery、ニュージーランド、2019)、「叫び声 / Hell Scream」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都、2018)、「G」(Yuka Tsuruno Gallery、東京、2018)、グループ展「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」(豊田市美術館、2024)、「アジア・アート・ビエンナーレ」(国立台湾美術館、台中、2019)、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(国立新美術館、東京、2019)、「美術館の七燈」(広島市現代美術館、広島、2019)、「わたしはどこにいる? 道標をめぐるアートとデザイン」(富山県美術館、富山、2019)、「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(森美術館、東京、2019)、釜山ビエンナーレ(釜山現代美術館、韓国、2018)、日産アートアワード2017(BankART Studio NYK、横浜、2017)、「2 or 3 Tigers」(世界文化の家、ベルリン、2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(横浜美術館、横浜、2016)など。

Title
ATM|Onikai
Dates
2025/10/11-2025/11/01
Opening
Monday - Saturday 10:00 - 18:00
Closed on Sunday
Opening reception
5:00-7:30, October 11, 2025
Artists
Yuichiro Tamura
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