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この隙に自然が

202201/08
202202/23

伊藤存 かなもりゆうこ 長島有里枝

この隙に自然が

太陽という題名の展覧会を見た後に、その一年後に同じ場所で開かれる展覧会について考えることになった。太陽という展覧会の壮大であっけらかんとしたマッチョ(1)さについて、何となく何か思っていると、自分の視点は足元のタンポポのロゼットに落ちた。

ロゼットというのはタンポポのような越年草の冬の形態のことで、日高敏隆のエッセイ(2)でその存在を知って以来、気になってそのミニチュア化した形と地面にぺったり張り付いた平面的な姿を、冬の枯れた足元から意識的に見つけ出すようになっている。
光合成を効率よくおこなうため丸く放射状に、そして、冷たい風を避けるように地面に張り付いたその姿は、なるほどミニチュアの太陽にも見える。おひさまに持ってしまうある種の観念的、象徴的な印象が、足元の地面でリアリズムのミニチュアとなって具体化される。

タンポポという植物を想像するときはほぼ間違いなく、放射状に広がる葉っぱの中心から伸びた真っ直ぐな茎のてっぺんに黄色い花の姿が思い浮かぶが、そのタンポポにはロゼットという別の姿もある。もちろん目に見えない根っこの世界もある。それら全てがタンポポということになるが、どうしても大きな声(あのタンポポの姿)が先頭切って耳に入ってきてしまう。別の姿が発するメッセージもキャッチしたい。そして、本当はあのタンポポもメッセージを発している。

長島さんの植物の写真(3)はキャッチしている。
それは植物写真としてではなく、人と向き合ったポートレートのようにしてある。そこには何という名前の植物か?というような、天造物を分類するような人間の視点は感じられない。植物自身のパーソナルが写し出されているように思える。決して擬人化ではなく、個別の植物がもつパーソナルを捉えているのだと思う。植物とこのように接した写真を知らなかった。

自然という大雑把な言葉が当然のようにやってきた。

目の前の2つくらいのことを気にしながら制作(4)を進めていくことは、マグマが冷えることが、決して玄武洞をつくるためではなかったことに似てこないだろうか?
人々がパンデミックでとりあえず家に篭っていた間、釣り人からの災難を免れた魚たちが川にいた。人間にとっての恐怖は魚にとっての楽園状態(5)を生み出していた。言い換えるとそんな状況と似てこないだろうか。これは滑稽な自然のミミックなのか、人とはそういう自然なのか。人という立場に魚という立場を加えてみると物事はよくわからなくなってしまう。

川の魚の楽園は束の間だった。感染の少ない山や川に人が集まり始めたことで、川には魚と人の緊張関係が復活した。

「月ノ座」(6)で目にした、かなもりさんの手による糸や布の破片を紡いだ作品は、本当に美しい郵便物の作品の隙間で、どのような形容も似合わない姿であった。人が作ったものというよりも、かなもりさんという生き物が作ったものとしか言えないそれに、似た事柄を探し出すと、河原のカヤネズミの巣が見つかった。カヤネズミの巣は釣り人の、魚にだけ向けられた眼には入ってこない。人はまだこのかなもりさんの事柄に言葉を見つけることが出来ていない。
伊藤存

(1)マッチョにいい意味も悪い意味もありません (2)どの本に書かれていたのか忘れてしまった。気になった人は日高さんの本を全部読んでみて下さい (3)作品集『SWISS』 (4)伊藤存による刺繍による絵の制作のこと (5)もちろん鵜やオオサンショウウオなどの恐怖からは解放されていないので、楽園と呼ぶには語弊がある (6)白亜荘の一室にある編集者・村松美賀子さんのスペース

伊藤 存 | Zon Ito
1971年、大阪生まれ。京都市在住。1996年京都市立芸術大学美術学部卒業。著書に『NEW TOWN』(2006年リトルモア刊)がある。近年の主な展覧会に、「日常のあわい」金沢21世紀美術館(金沢、2021)、「変化する自由分子のWORKSHOP展」ワタリウム美術館(東京、2020年)、「世界制作の方法」国立国際美術館(大阪、2011年)、「プライマリー・フィールドII: 絵画の現在 ─ 七つの〈場〉との対話」神奈川県立近代美術館 葉山(神奈川、2010年)、「Louisa Bufardeci & Zon Ito」シドニー現代美術館(シドニー、2009年)、「ライフがフォームになるとき:未来への対話 / ブラジル、日本」サンパウロ近代美術館(サンパウロ、2008年)、「きんじょのはて」ワタリウム美術館(東京、2003年)など。

長島 有里枝 | Yurie Nagashima
1973年、東京生まれ。1995年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、1999年カリフォルニア芸術大学ファインアート科写真専攻修士課程修了、2015年武蔵大学人文科学研究科博士前期課程修了。1993年「アーバーナート#2」展でパルコ賞を受賞しデビュー。2001年第26回木村伊兵衛賞受賞、2010年『背中の記憶』(講談社)で第26回講談社エッセイ賞を受賞、2020年第36回東川賞を受賞。
アイデンティティや家族など、他者との関係性をテーマに写真作品を制作する一方、近年では女性のライフコースに焦点をあてたインスタレーション作品を発表している。
近年の主な個展には2019年「知らない言葉の花の名前 記憶にない風景 わたしの指には読めない本」(横浜市民ギャラリーあざみ野)、2018年「作家で、母で つくるそだてる」(ちひろ美術館、東京)2017年「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、東京)などがある。

かなもり ゆうこ | Yuko Kanamori
美術作家。インスタレーションを中心に、映像作品、パフォーマンスやカフェなどさまざまな形でプレゼンテーションを行い、京都で制作を続けている。子供の身の回りのものをモチーフとした初期作品からはじまり、町中で子供古着の収集や子供の写真を撮り歩いた作品。その過程で出会った少女と現在までずっと作品を作り続けたり、友人やアーティスト仲間とのコラボレーションも作品づくりの軸になっている。また、お茶会のプロデュースや、2009年3月には仕事から取り出したイメージに言葉を添えた本『ヴァリアント』も刊行。これらの多様な作品がモチーフとするのは身近な中にある大切なものであり、その表現はゆらぎのある詩的な時空間を作り出すことをめざしている。

展示会名
この隙に自然が
会期
2022/01/08-2022/02/23
営業日
10:00-18:00
休廊日
月曜日
イベント
オープニングパーティー 2022/1/8 (土) 17:00-20:00
協力
タカ・イシイギャラリー
MAHO KUBOTA GALLERY
作家名
伊藤存 かなもりゆうこ 長島有里枝
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