猫とマチエール
薄久保香、大田黒衣美、西村有未、土取郁香
絵画が物語の魔法から解放され物理的なものとして現れた時、そこには、艶かしいマチエールがあった。マチエールを見る行為は視覚による思考を誘発する。
象徴的な図像と物質としての絵肌、この同時に認識する事ができない2つの異なる次元を往来するその間に現実界の「秘密の裏側」が隠されている。
西村有未、土取郁香の絵画には抽象化されたモチーフが登場する。
西村は形而上の存在の描写を試み、生み出された図像とマチエールは見るもののプライマルな衝動に訴えかける。
土取の絵画に表れる人物の形体は曖昧で、絵具やスプレーなどのメディアに溶けていく。何も表象しない絵具に鑑賞者は自分だけのディテールを見つけ、図像との関係性を築いていく。
薄久保香、大田黒衣美の平面作品は私達の記憶や想像の中にある質感に訴えかけ、脳内でコラージュ作品を完成させる。
薄久保の作品は3次元空間を作品の中に作りながら、そこに平面性を感じさせる厚紙や折紙・写真等を立体的に折り曲げたり重ねたりする事で3次元を示唆するメタファーとして登場させる。現実世界(3次元)と絵画世界(2次元)の関係が入子状に設定され、画面のメタレベルにマチエールを出現させる。
大田黒の写真作品《sun bath》のシリーズは、猫の背中に人体のカタチに切り抜かれたレリーフ状のガムが配置されている。ガムと猫の背中はマテリアルとして扱われ、馴染みのある質感ではあるものの、普通ではまずありえない組み合わせに軽い立ち眩みを感じながら、僅かな時間しか成立しえない造形物の表象の中と外を往復することとなる。
萩原朔太郎の著書『猫町』にこんな一文がある。"私は昔子供の時、壁にかけた額の絵を見て、いつも熱心に考え続けた。いったいこの額の景色の裏側には、どんな世界が秘密に隠されているのだろうと。私は幾度か額をはずし、油絵の裏側を覗いたりした。"(1997年 パロル社出版 萩原朔太郎 『猫町』26-27ページより引用)本展覧会にお越しになり作品をご覧になられた時お気付きになるだろう、秘密は作品の裏だけでに隠されているわけではない事に、まさに目の前の表面にも隠されている。『図像とマチエール』、『猫とマチエール』の間に。
2010年東京藝術大学大学院博士課程美術専攻修了。現在、東京藝術大学美術学部油画准教授。近年の主な展覧会に、「SF -Seamless Fantasy 絵画計画と43,800日の花言葉」MA2gallery、(東京/2021)、「Kaoru Usukubo|Daisuke Ohba」LOOCK Galerie(ベルリン/2020)、「Kaoru Usukubo, Hannes Beckmann」LOOCK Galerie(ベルリン/2017)、「Wabi Sabi Shima」Thalie Art Foundation (ブリュッセル/
2015)、「ミニマル/ポストミニマル 1970年代以降の絵画と彫刻」宇都宮美術館(宇都宮/2013)、「Crystal Voyage」(フリードリヒスハーフェン/2012)、「crystal moments」LOOCK Galerie(ベルリン/2011)、「横浜トリエンナーレ2011 OUR MAGIC HOUR」横浜美術館(横浜/2011)など。
大田黒 衣美 | Emi Otaguro
1980年福岡県生まれ。2008年東京藝術大学大学院修士課程油画科修了。2019年3月より、文化庁新進芸術家海外研修制度を受けベルリンを拠点に活動。現在は愛知県在住。近年の主な展覧会に、「DOMANI・明日展2021」国立新美術館(東京/2021)、「DELTA」KAYOKOYUKI、駒込倉庫(東京/2021)、 「MAT, Nagoya Studio Project vol. 6」Minatomachi POTLUCK BUILDING(愛知/2020)、個展「MESA」クンストラーハウス・ベタニアン(ベルリン/2020)、個展 「spot」KAYOKOYUKI(東京 / 2017)、「海峡 channel」KAYOKOYUKI(東京/2016)、「project N 55 大田黒衣美」東京オペラシティ アートギャラリー(東京/2014)、「不知火の水まくら」(企画:KAYOKOYUKI)青山|目黒(東京/2013)など。
西村 有未 | Yumi Nishimura
1989年東京都生まれ。2019年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻研究領域(油画)修了。近年の主な展覧会に、「絵画の見かたreprise」 √K Contemporary(東京/2021)、個展「図形的登場人物(雪娘)と望春の花 」FINCH ARTS(京都/2020)、「PIE314 FOR MAKE WORKS」ON MAY FOURTH(東京/2019)、個展「描き続け 為に(物語から絵肌へ、絵肌から物語へ。その繰り返し)」神奈川県立相模湖交流センター(神奈川/2018) 「第3回CAF賞入選作品展」3331 Arts Chiyoda(東京/2016)、個展「From light houses vol.1 yumi nishimura」MOONDUST(東京/2016)、「TWS-Emerging 2013:例えば祖父まで、もしくは私まで。こんもり出現」TWS本郷(東京/2013)など。
土取 郁香 | Fumika Tsuchitori
1995年兵庫県生まれ。2020年京都芸術大学大学院美術工芸領域修士課程修了。近年の主な展覧会に、「Kyoto Perspective」ANB Tokyo(東京/2021)、「ARTISTS' FAIR KYOTO 2021」京都府文化博物館(京都/2021)、「Kyoto Art for Tomorrow 2021ー京都府新鋭選抜展ー」京都府文化博物館(京都/2021)、「UNTAMED VOL.2 YOUNG ARTISTS GROUP」COHJU contemporary art(京都/2020)、「-Inside the Collector's Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」寺田倉庫WHAT(東京/
2020)、「アートアワードトーキョー丸の内」行幸ギャラリー(東京/2020)、個展「骨と皮(火を灯す・薔薇をみつけて来なければ)」WAITINGROOM(東京/2020)、「SUBJECT」アンテルーム京都(京都/2020) など。
- 展示会名
- 猫とマチエール
- 会期
- 2021/11/13-2021/12/26
- 営業日
- 10:00-18:00
- 休廊日
- 月曜日
- 協力
- KAYOKOYUKI
- 作家名
- 薄久保香、大田黒衣美、西村有未、土取郁香