ははのふた
下道基行
MtK Contemporary Artでは10月11日(土)より11月1日(土)まで、下道基行による個展『ははのふた』を開催いたします。
”ある朝、大量に入れられたお茶たちの容器に、いつもいろいろなフタがのせられていることに気がつく。不器用でいびつでかわいらしい新しい関係が食卓の上にある気がした。”
シリーズ《ははのふた》は、「新しい家族の風景」をユーモラスに描く写真シリーズ。これまで金沢21世紀美術館やオーフス現代美術館などで展覧会に参加してきたこの写真シリーズが、この度、赤々舎より写真集として出版されました。昨年10月にOnikai MtK Contemporary Artにて展示されたこの本シリーズをさらに拡張し、新たな規模で展示いたします。
シリーズ《ははのふた》の始点には、2011年の東日本大震災直後にαM(東京)で発表された作品《bridge》があります。道端の用水路に置かれた一枚の「板」が道となり、生活をつなぐ小さな「橋」となる光景に、下道は人間の創造行為の根源を見出し、震災後に購入をした小さなバイクで全国各所を回りながら撮影を続けました。それは、人智では抗うことのできない巨大な力による人間世界の破壊を目の当たりにした作家が、これからいかにして日常を積み重ねていくべきかという深い内省を通し、人間の逞しさと生活の中の創造性を再発見する契機となったのです。
この眼差しを家庭という身近な空間へと持ち込み、2012年から2015年にかけて撮影されたのが《ははのふた》です。2015年から2016年にかけて豊田市美術館の図書館で開催された展覧会「ははのふた|14歳と凹と凸/Mother’s Covers|14 Years Old’s 凹 and 凸」で初めて発表され、その後、2021年の金沢21世紀美術館でのグループ展「日常のあわい/Somewhere Between the Odd and the Ordinary」や、デンマーク・オーフス現代美術館での個展「船はあの丘に登った/A Ship Went Up That Hill」でも紹介されました。
そして、本作を写真集として出版するに至ったのには、2019年以降に拡がった新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの影響があるのだといいます。再び生活の基盤を問い直すこととなったこの経験より、下道は『ははのふた』を、3年の制作期間を経て2025年6月に赤々舎より刊行致しました。
本展は、その刊行後初となる大規模な作品の発表の機会です。ぜひご高覧いただけますと幸いです。
また、10月22日(水)には、17時30分より、書籍刊行記念として「下道 基行 × 篠原 雅武トークイベント」を開催いたします。参加のお申し込みはこちらから。こちらもあわせてお越しください。
下道 基行 | Motoyuki Shitamichi
1978年岡山生まれ。2001年武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。2003年東京綜合写真専門学校研究科中退。日本各地に残る軍事施設跡を4年間かけて調査・撮影したシリーズ『戦争のかたち』(2001-2005)でデビュー。東アジアの日本植民地時代の遺構として残る鳥居を撮影した代表的なシリーズ『torii』(2006-2012)、250年以上前に沖縄先島諸島の海岸線に津波によって流れ着いた岩の現在を動画で撮影するシリーズ『津波石』(2015-)など、旅やフィールドワークをベースにした制作活動で知られる。2020年以降、コロナ禍で香川県直島に家族で移住し地元の人々と協働しながら島のアーカイブを作るプロジェクト『瀬戸内「」資料館』を継続している。
表現手法としては、生活のなかに埋没して忘却されかけている物語、あるいは些細すぎて明確には意識化されない日常的な物事を、写真やイベント、インタビューなどの手法によって編集することで顕在化させ、現代の私たちにとってもいまだ地続きの出来事として「再」提示するものである。2012年光州ビエンナーレ新人賞、2015年さがみはら写真新人奨励賞、2019年Tokyo Contemporary Art Awardなどを受賞。2019年ヴェネチアビエンナーレ日本館参加作家。国内外での芸術祭や展覧会に参加し、出版物も多数ある。
- 展示会名
- ははのふた
- 会期
- 2025/10/11-2025/11/01
- 開廊時間
- 10:00-18:00 日曜休廊
- トークイベント
- 10月22日(水)17:30-19:00
- 作家名
- 下道基行