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旅と夢

202402/29
202403/23

相川勝、小林椋、すずえり、水戸部七絵、大和田俊 キュレーター:畠中実

1 大和田俊,“unearth”,Photo by 冨田了平. 2 相川勝,“〈ソノラ砂漠の国境上を歩く〉より”. 3 小林椋,“鳴らす茎(フェ)を大洋へとそそぐ(クゥ)ための回”. 4 すずえり,“アナスタシア”

5 水戸部七絵,“Sixty years since the first man went into space.”.

 

1962年、J. G. バラードは、これからのSFがめざすべきは、外宇宙(Outer Space)ではなく「内宇宙」(Inner Space)であると宣言しました。宇宙開発時代に台頭したSF(Science Fiction)というジャンルが、宇宙旅行や異星人との遭遇を描き、未来のテクノロジーや来るべき宇宙時代をモチーフにしたファンタジーとして確立される一方で、そうした状況下での人間の内面を描写することで、テクノロジーが盲信的に肯定された未来像への批評としての思弁小説(Speculative Fiction)が展開されました。
現在の私たちは、メタヴァースやミラーワールドなどの仮想世界が現実世界と接続され、現実の一部となって共存している世界に生きています。それは、2020年以来制限されていた移動が解除された後にも、その変化は表れることでしょう。この数年来のネットワーク越しの交流をへた私たちの、ヴァーチュアルなツーリズム、異郷への夢、移動について、土地への憧憬、変容する人間像には、コロナ以後の内面から見た風景論とも言えるものが表出しているのかもしれません。このテクノロジカルな状況から、現在の移動と空想について、作品を通じて考えてみたいと思います。

畠中実|NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員

 

 

相川勝

《ソノラ砂漠の国境上を歩く》2021

新型コロナウイルスによる外出自粛が続く中、自身の行ってみたい場所、行こうと思っても簡単には行けない場所を、公開されている衛星写真と地形データを使用して、3DCGによる仮想空間として制作しています(ほかにはK2やマッターホルンなどの世界の名山や砂漠など)。この作品で相川は、地図上の国境線に沿って、仮想空間内の砂漠を歩いて横断し、数時間を要するムーヴィーを制作しました。その、仮想空間内を移動した記録の映像作品と、その過程で撮影した風景写真が展示されています。それは移動不可能な場所への憧憬としての旅をヴァーチュアルに実現します。

 

大和田俊

《unearth》

約2億7000万年前に形成された石灰岩(栃木県佐野市で採掘される葛生石灰岩)に、アミノ酸を点滴で少しずつ与えることで、石が化学変化を起こし、溶けながら二酸化炭素を発生します。それに伴い発生する微細な音をマイクロフォンによって集音、増幅し、その音を聴くことができます。

この石灰岩の成分は、フズリナという小さな海洋生物の化石です。人間の時間のスケールをはるかに超える化石の生成過程を、それを溶かし、その成分であった二酸化炭素へと還元することで、その様子や音として観察することによって感覚することを試みます。

また、青森の石灰石から生まれる二酸化炭素から作られた炭酸水を出品しています。

 

小林椋

《おちつきなくつきをちくちく》2022

ゆっくりとある挙動を繰り返す、木工の風合いの朴訥とした印象の自動機械を制作する小林は、今回の出品作品で、文学作品からの一文をモチーフに、自動機械を制作しています。あるものの動きが、なにかに例えて描写されるような文章を取り上げ、まずヴィデオ・カメラで実写撮影したものを、ロトスコープの手法によってトレースし、アニメーションのような映像を制作します。そうした作業から抽出された動きを、次に機械の動きとしてトレースします。

文章〜映像〜動き、という翻訳作業によって作られた作品もまた、鑑賞者によってもまた、なんらかの解釈がなされる対象となっています。

 

すずえり

《メルクリウス - ニューヨーク》2023

2023年以降、ふたたび人々の移動がさかんになりました。すずえりは、長期に渡り6カ国を旅する中で、この作品のアイデアと素材を、それぞれの地域や国に歴史にもとづく固有の物語として取材してきました。

作品は、グラハム・ベルが発明した可視光通信の仕組みを利用したもので、電球を光らせる電気ケーブルに音声信号を接続し、発光する電球の光の中に音声の波長を混入し、それに受信機をかざすことで音声を聴くことができます。手作りの、ある意味ではプリミティヴな通信装置を使用することについて、すでにいない人々や出来事の記憶を、その場所の音から感じ取る手段として、エジソンが死者の声を聴く装置を作ろうとしていたことにインスピレーションを受けています。

 

水戸部七絵

《Picture Diary 19690720》2024

水戸部の絵画には、多くの場合、顔がモチーフとして選ばれています。しかし、その多くは、実際に直接対象となる顔を見て描いたのではなく、メディアに登場するスターや著名人のイメージを間接的に描いたもので、それゆえ、雑誌の表紙やレコード・ジャケットのような、メディア経由の複製物としてのモチーフが描かれています。コロナ禍に、はじまった〈Picture Diary〉というシリーズは、SNSで見つけたモチーフを描いていくもので、アトリエに居ながらにして、さまざまな世界の動向を直視していこうとする姿勢があらわれています。それは時に悲惨な状況を伝えるものではありますが、抵抗する人々の側になった、ポジティヴなメッセージともなりえているのが特徴と言えるでしょう。

展示会名
旅と夢
会期
2024/02/29-2024/03/23
オープニングレセプション
2月29日(木)
作家名
相川勝、小林椋、すずえり、水戸部七絵、大和田俊 キュレーター:畠中実
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